
教員になってからは順風満帆のように思われるかもしれませんが、それなりに大変な思いも経験も沢山してきました。二校目の九段高校では、着任が決まると校長面接より前に、体育科主任に連れられ挨拶に行ったのが、九段高校の様々な伝統を作って来られた、剣道の大家、湯野正憲先生のご自宅でした。
先ず驚いたのが、麹町一丁目に鬱蒼とした木が繁茂し、道場の入り口に魚の形をした板を小槌で叩き、来訪を告げる魚版がかかっていたこと。そして中に入ると、当時はなかった初めて見た作務衣姿の湯野先生。その肩にはカラスが止まっており、靴下の左右が赤と黄色の毛糸の手編みのもの、さらに、「これは一弦琴」と言われ、弦が一本張ってある木の棒を、ベンベンと弾きながら「人間はな~」と語るのを意味も解らずただ黙って聞いていたこと、ともかく全てが驚きの連続でした。湯野先生は外出の際も同様で、肩のカラスにプラスし、菅笠を被っており、私には全く理解できませんでした。これは嘘のような本当の話です。
そんな湯野先生がつくって来られた数々の伝統の中に寒稽古があり、体育科の教員はすぐ近くの武道館にある武道学園で剣道か柔道を1年間は習う事になっていました。これだけでも今は信じられませんよね。私は、本当は剣道を習いたかったのですが、湯野先生の下で剣道はどうかと躊躇し(その当時は変な人としか思えなかったので)柔道を選びました。
この続きは次回、今回はここまで、ちょっと寄り道はこの後2回掲載させて下さい。



